ここでは、ロックダウン状況下における、在インド日系企業の状況および、在インド企業の従業員への昇給・昇格、減給・解雇に対する対応事例や弊社が推奨する対応策についてご紹介する。

ロックダウン4.0状況下の在インド日系企業

インドの約2ヶ月に渡るロックダウンは、3度の延長を経て現在4.0を迎えており、長期化した経済活動の規制は、企業の事業継続面でインド進出日系企業を苦しめている。
インド経済回復に向け、ロックダウン3.0より段階的な緩和策が行われており、製造業を中心に生産活動へ一歩ずつ進んではいるものの、その道のりは険しいと言わざるを得ない厳しい状況が続いている。

特に、ロックダウン期間および今後すぐに売り上げがたたない中での資金繰り対策は、各社が頭を抱えるところだ。

先日、インド財務大臣による総額28兆円にもおよぶSpecial economic package(特別財源)の詳細が発表されたものの、インド進出日系企業がその恩恵を享受できるかどうかの、具体的な方向性は見えていない状況だ。

コロナ状況下で起き得る昇給・昇格、減給・解雇問題と対応策

本来であれば、4月~5月は「御社の今年の昇給率はどう?」という風物詩的なやりとりが、インド進出日系企業各社間で行われる時期であるが、今年はもちろん様子が違う。

インド全体で、今回昇給を行う業界としては、業績がコロナ禍でも好調な一部の製薬関連業界が挙げられ、5-10%の間で昇給を進める企業もある。

一方、インド進出日系企業では、自動車製造またはサプライヤーとして販社やSCM等物流・サービスに関連している企業の多くが、コロナ禍による業績低下に直面しているため、多くの企業は、今年度の昇給・昇格を見合わせる決断をしている、もしくはそもそもの決断に至っていないのが現状である。

経営者の対応によっては、従業員が離職を検討したり、状況が悪化すれば企業評判を下げたり、訴訟問題に発展することも考えられ、企業の継続的健全経営が難しくなることもある。こういったリスクを最小限に押さえるために、ここでは、昇格と昇給、減給・解雇といった視点から、在インド企業がどういった対応をとっているかをご紹介していく。

事例1:厳しい状況下でも敢えて昇給・昇格を選択する

昇給や昇格はそもそも前会計年度である2019年度の実績を元にしっかりと評価・対応をすべきであり、優秀な社員のリテンションやモチベーションの維持のためには必要であると考える企業も少なくない。

今回のコロナ禍による影響は深刻で、社員一人一人の過去努力による実績積み上げとは、できる限り切り離して考えるべきだとの判断も一つの選択肢である。

インドのFiscal year(会計年度)は4月―3月である。多くの企業は、第一四半期(Q1)である4-6月の間に、目標管理制度(MBO)などで設定した前年度実績を振り返る評価面談があり、同じQ1内で昇給並びに昇格を決定するという企業は多い。

今回、ロックダウンによりほとんどの企業も、上記のような普段であれば行われる活動ができていない。4月と5月は慣れないリモートワーク対応によるインド人社員マネジメントや、日本人駐在員やその家族の一時帰国サポート、生産・営業活動へ向けての政府通達文書の読み込み・理解などの時間に忙殺されてしまい、Q1は6月の1か月を残す所となってしまった。

従業員への迅速なフォローアップとスケジュールの見直しを

昇給・昇格を考えている企業は、6月初旬などなるべく早い段階で、マネジメントから社員への昇給・昇格をする意思のアナウンスをすることを推奨する。

今、インドで働く会社員が一番恐れているのは、自身の失職であり、減給である。事実、インドでは大手のリライアンス・インダストリーズ・リミテッド、マクドナルド、スパイスジェット、ゾーホー、キャップジェミニ、エアデカン、バジャジ・オート、ビストラ、オヨ、ゾマト、スイーギーなどの企業は、すでに給与削減や解雇を発表していることもあり、自社にもそういった事態が及ぶのではないかと不安を感じている従業員も多い。

マネジメントからは、いち早く「昇給・昇格をする」という意思を力強くアナウンスをすることにより、自分の会社はこんな状況下でも、社員に対してしっかりと処遇をしようとしている、というポジティブな意思が分かれば、社員のロイヤルティやモチベーションの向上につながる。

具体的には、会社トップであるManaging Directorがオンライン会議等で全社員に自ら直接口頭説明を行う、または直接メールを送信することにより、インド人社員が会社やマネジメント層に対して「Trust you」というポジティブな状況へ転換させることができる。

厳しい状況下ではあるものの、対応次第では信頼獲得の機会にもつながる可能性があるので、社員に可能な限り感動を与えるくらいのコミュニケーションが行われることが望ましい。

昇格・昇給のスケジュール見直し

その後、昇格者への新タイトル付与のタイミングは、7月からがタイミングとしては妥当である。ただし、実際の昇給率の決定はQ2中、8月~9月の間で自社ビジネスがどう回復し、どう今後の生産/売り上げ予測ができるかを見定めてからでも決して遅くはない。

昇給・昇格の決定要素として、「過去実績に対する評価」、「今後の成長・達成への期待」の二つの要素があることを理解している社員は多いので、社員も納得感を持ち、ある程度の期間待つことはできるはずだ。実際の新給与の支払いタイミングは、8月に昇給率を決定したならば9月、9月に決定したならば10月開始が妥当である。

まとめると、以下のようなスケジュールとなる。

【6月】昇給昇格をする意思のアナウンス
【7月】昇格者への新タイトル付与
【8月~9月】昇給率の決定
【9月~10月】新給与での支給開始

事例2:事業継続性を重視し、減給・解雇対応を選択する

企業判断として、社員に減給や解雇対応をせざるを得ない場合もある。「ロックダウン中の減給や解雇は、政府通達により、いかなる場合でも禁止されているか」と、質問を頂戴することは多い。

ロックダウンのタイミング(1.0から4.0)にもよるので一概に回答はできないが、現状のロックダウン4.0を前提とした、ホワイトカラースタッフに対する考え方を述べる。(WORKERへの対応としては、ロックダウン期間中は給与削減・解雇もしないことを推奨)

減給への対応

まずは減給について、日本では過去の景気後退期において、社員全員に一律〇%カットと、横並び色が強い傾向にあったが、インドにおいて減給する場合はポジションにより傾斜をつけることが推奨される。
例えば、シニア社員20%、ミドル社員10%、ジュニア社員0 or 5%と傾斜を持たせるなどだ。日本と比べて、社員間の給与のボラタリティが大きいインドでは、元々の給与額が社員間で大きく違うので、同じ減給レートではジュニア社員の生計が難しくなることへの配慮となる。

解雇への対応

解雇に関しても、現在のロックダウン4.0という状況下において、アンダーパフォーマーに対しては対応可能である。これまでWarning Letterを文書などで当該社員に警告してきたなど、通常の手順を追っている場合などは、ロックダウンで被った影響とは関係なく解雇等の対応は可能となる。
とはいえ、非常にセンシティブな対応が求められる上、コロナ禍とは切り離した形での解雇であることをしっかりと説明する必要がある。通常以上にコミュニケーションの仕方が重要であり、コンプライアンスに従い慎重に進める必要がある。

コロナ状況下における従業員に対する対応や、企業継続のための減給や解雇等の判断が自社内で難しいと悩まれている企業様への、無料相談会を実施しております。お気軽にMiraist人事コンサルティングサービスにお問い合わせください。

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