みなさん、こんにちは!Miraist編集部です。
今回のインタビューゲストは Sushi Junction でマーケティングを担当している、手嶋綾子さん。

インド在住の日本人の皆さんならご存知の「Sushi Junction」。
これから大きく成長するインドで、日本の素晴らしさが伝わる新しい消費者ブランドを創りたい」という思いから、2015年にスタートしたオンライン・デリバリーサービスです。現在はデリー・グルガオンを中心にロール寿司、丼もの、サラダなどをWebサイト・モバイルサイト・お電話で注文を受けて、ご自宅・オフィスにお届けするサービスを行っております。

MiraistメンバーもよくSushi Junctionのデリバリーサービスを利用しています。インドではなかなか和食が食べられないので、重宝しています!

海外転職をし、遠距離恋愛を乗り越え、海外での出産と子育てを経験し、今はインドで起業。綾子さんがどのようなキャリアを築いて、今に至るのか。語っていただきました!

新卒で世界最大の下着メーカーへ入社

―今までのキャリアや仕事の軸を教えて下さい。

幼少期に台湾、中学3年生から高校卒業までは上海に住んでいたので、いつか英語や中国語を活かした仕事がしたいと漠然と考えていました。
また、女性に関わる仕事がしたかったので、それを軸にして企業を選んでいましたね。就職活動のときには、外資系の化粧品メーカーなどを受けていました。

―なるほど。その中でご縁があって入社したのが、トリンプだったということですね。

そうです。トリンプ(スイスのバート・ツルツァッハに本社を置くトリンプ・インターナショナルのこと)に入社して、1年目は社長秘書、2年目からはマーケティング部門に異動し、東京のオフィスで商品企画に携わりました。

2年目からは様々なブランドの企画に関わりましたね。当時トリンプには二つの看板商品がありまして。「天使のブラ」って聞いたことありますか?これは夏のメイン商品でバストアップを目的とした商品です。
一方、私が担当していた「恋するブラ」は冬のメイン商品で、ブラジャー着用時でも「恋をしている」ように、心地よくリラックスできる商品。

その他にも、大人の女性をターゲットにした、機能素材・補正機能にこだわった商品、オンライン限定のセクシーな商品シリーズなど様々なニーズに合わせた商品を担当していました。トレンド研究だけでなく、ターゲットとなる女性が購読する雑誌、書籍を読み、また実際にインタビューし彼女たちのライフスタイル、またその先にある潜在ニーズを研究していました。

―トリンプの下着は有名ですよね。学生時代の目標だった「女性に関する仕事」にも関われていたのですね。

はい。仕事はとても楽しかったです。
ですが、仕事をやる中で、どこか狭い範囲の深掘りをやっている気がしてしまって。日本のマーケットも既に成熟していますし、会社も大変整っている環境でした。

次のステップに何が待っているのだろう?と考えた時に、想像がつかなかったのです。その時に「もう少し違う環境で働きたいな」と考えるようになりました。

インドで起業した手嶋綾子さん

 

念願の海外就職。自ら志願して中国支社へ

―「もっと他の環境で挑戦してみたい」そう思うようになってから、進路はどのように変わりましたか?

学生の頃上海で過ごした経験があり、年に1度は上海に行っていました。
その当時、中国は「大きな経済成長に向かっていた時期」でした。
中国にいる友人のライフスタイルが毎年どんどん変わっていく姿を見ていて。それは同時に彼らの考え方も変えていくんですよね。その姿は日本にはない光景で。充実した様子で、刺激的な毎日を送っているように映りました。

私もこういう経済環境で仕事がしたい」と強く思うようになりました。元々「いつか海外で」と思っていた気持ちが確固たるものになって、上司に相談してみたところ「正規ルートはないが、レジュメを作ったら中国の社長につないであげる」と言ってくれたのです。

―すごい!そんな方法があるのですね。

普通はダメだと思われることでも、やってみると意外な方向に進みますね。そうしたら直ぐに電話がかかってきて。その後北京で面接が行われ、無事中国勤務が決まりました。

―雇用形態は、どのような形になるのでしょうか?

日本のトリンプをやめて、中国のトリンプに入社するという形になりました。
ありがたいことに日本での経験を考慮してくれて、給与は日本水準のまま。当時はインフレの影響もあり給与は毎年上がっていきましたし、物価水準と比較しても十分な額でした。

中国経済市場で得られるもの

―自ら切り開き中国での仕事をスタートした綾子さん。実際に中国の市場は日本とはかなり違うのでしょうか。

当時、中国の下着マーケットは、商品もサービスも充実していませんでした。
日本のトリンプと比較すると、中国トリンプは企業規模が小さかったのです。そのため、商品企画だけに留まらず、ブランドに関わる広範囲の業務を担当することになりました。

当時、主に扱っていたのはヴァリゼールというフランスのブランドで、ブラジャーはひとつ1~2万円前後という高価格帯でした。1年の売上目標が会社によって設定され、ブランドマネージャーという立場から、どのようにすれば目標達成が出来るのかという視点で仕事を進めていました。

―途上国は業務全体が仕組み化されていないため、やらなければいけないことも多いですよね。実際に関わってみていかがでしたか。

すごく楽しかったですよ。日本では、そのブランドの一旦を担う仕事をしていましたが、中国ではそのブランド全体を見る仕事をしていました。まったく違う視点や、仕事のやり方を教えてもらいましたね。

また、マーケットの成長速度も速く、成果も大変出やすい時期でした。スピード感を持って仕事をしないと、市場の需要に付いていけなくなるので、毎日がとても新鮮でした。

―中国も刺激の多い環境ですね!その後、綾子さんはインドに渡ったのでしょうか?

インドに行く前に、中国で夫となる彼との出会いがあったのです。ですが、付き合ってすぐに彼の帰任が決まってしまって。中国と日本で遠距離が始まりました。

インドで起業した手嶋綾子さん

遠距離恋愛から結婚へ

―遠距離恋愛をする上で不安になることはありましたか?

遠距離恋愛が別れる理由にはならないと考えていたので、不安にはならなかったです。
お互い仕事を優先しながら、付き合いを続けました。彼は日本に帰任したあと、会社でアジア・アラブ地区を担当していたのですが、メインマーケットである中国にも度々来てくれましたね。

―遠距離を乗り越える上で、心がけていたことなどありましたか?

そうですね、二人のルールで「家に帰ったら毎日スカイプをつなぐ」ということをしていました。会話はなくても、生活音でつながっているというか。ちょっとマニアックな話になってしまいますが(笑)

―生活音でつながるって素敵ですね!この時、結婚についてはどのように考えていましたか?

結婚はしたいと思っていましたが、「この人と結婚したい」と思える人にはなかなか巡り会えませんでした。
当時の私には、中国の経済も、そこで仕事をする日本人男性も、浮き立って見えました。自分自身もそうだったかもしれません。仕事のパフォーマンスが自分の成果なのか、勢いのある経済のおかげなのか。経済状況が感覚を鈍らせてしまう気がしました。

一方で、目まぐるしく変化する経済環境の楽しさを共有したいとも思っていて。総合的に考え、当時の夫の視点はいつも冷静で、私に沢山の知識を与えてくれ、心から尊敬出来たんです。彼とは結婚したあともしばらく遠距離でしたが、私の中国での仕事を応援してくれていました。

インドで起業した手嶋綾子さん

中国で出産。日本との育児環境の違いを体験

―お子さんは中国で出産したんですよね。

はい。当時、子供は中国で産みたいという気持ちがずっとありました。中国は3ヶ月産休を取れるのですが、その期間を取り終えてから退職しました。
中国での出産の時は、彼も休みを取って来てくれましたし、母も中国に住んでサポートをしてくれました。

―出産における家族のサポートは本当に大切ですよね。

そうですね。でも、中国はインドと同様サポートがしっかりしているので、たとえ家族が遠くにいても大丈夫です。質もとても高いですし。
中国では新生児と産後のお母さん専門のお手伝いさんがいることも多いので、出産サポート体制は充実しています。その後は日本で育児生活にどっぷり浸かっていました。

―ずっと仕事を続けてきた綾子さんですが、育児と仕事のギャップを感じたりしましたか?

育児の最中も、ずっと走り続けていた感覚があり、楽しかったですよ。育児は思い通りに行かないことが多く、達成感が見出しにくいというところはありますが、結局、子供が可愛いので(笑)
周りに自分と似た環境のママさんたちもいたので、いろんなことを共有しながら充実した時間を過ごしていましたね。

インドで起業した手嶋綾子さん

インドでの起業。マーケティング担当として立ち上げに参画

―インドとの関わりはいつごろあったのでしょうか。

夫がインド企業とのM&Aに関わり、日本側の代表としてインドに駐在することになったのです。そのタイミングで一緒にインドに渡航しました。

―インドでの生活に不安はありませんでしたか?

不安もありましたが「中国にいたから、インドも大丈夫だろう」という気持ちがありましたね。ただ実際インドに来てみて、私にとって「中国は外国ではなかったかも」という気持ちになりました。幼少期から中国で過ごしていましたし、日本と中国って、やっぱり基本的に結構似ているんですよ。同じ文化圏で、醤油文化ですし(笑)

ですが、インドの人々の気質は私にとって未知でした。特に、当時は駐在員の妻という立場でインドに来たため、インドの人と密に関わることも少なくて。インドを理解するのになかなか時間がかかりましたね。

―その後、Sushi Junctionのサービスをスタート。インドで起業に至った経緯を教えていただけますか?

はい。夫は以前、中国に駐在していた時に「日中の国交関係がどうであれ、確固たる「ブランド」があれば、日本の商品を買ってくれる」ということを強く感じたんだそうです。その経験からインドでも日本のブランドの成功モデルを創りたい、という熱い気持ちがあり、起業に至りました。

私自身も、一度中国で経験したような急激に成長するマーケットでのビジネスにチャレンジしたいという気持ちがありましたね。

―パートナーの起業に対して不安に思う女性もいる中で、綾子さんはいかがでしたか。

もちろん、そのまま駐在員の妻でいるほうが安定していたと思います。夫は大学卒業後、大きな投資を頂いてインターネットのベンチャーを立ち上げました。その後はアメリカのビジネススクールに行き、米系コンサルティングファームで勤務していました。前職では製薬メーカーのアジアアラブ地区担当役員として、20社をまとめていました。

全ての過程は、「いつかまた起業したい」という強い思いを持って、学び、歩んできた道です。その彼の長い道のりを知っていたので、インドという大きな可能性を持つマーケットで挑戦するのなら、私も応援したいと思っていました。

インドで起業した手嶋綾子さん

夫婦でインド市場に挑戦

―綾子さんは今までのご自身の経験を生かし「インド市場のマーケティング」を担当されているんですよね。インド市場における手応えはどうですか?

世界で毎年30%、日本食レストランが増加しているそうです。世界で日本食がトレンドになっている一方で、インドでは日本食というカテゴリー自体まだ存在していない状況。インド人にとって外国料理というと、中華料理やイタリア料理が一番なじみ深いもので、また最近ではタイ料理もかなり普及してきました。

そしてその次に、日本食や韓国料理などに大きな可能性があると、インド人の食の評論家達は話しています。海外から戻って来るインド人富裕層に牽引され、日本食を食べるトレンド意識の高い人々は急増加しているんです。

―そうなんですね!今後はどのような展望がありますか?

インドは大きなポテンシャルのあるマーケットだと考えています。
実際に、日本食のデリバリーサービスの競合各社は、私達と前後して事業を開始しており、ローカルプレイヤー達も着実に動き始めています。

インドの所得の向上と共に、日本食に限らず食全般に対する消費額も大きく成長しており、その中でオンラインで注文を受けるデリバリーサービスは、海外からの投資も沢山流入して急成長している分野です。他社に先駆けてこの成長分野で消費者の理解や組織・オペレーションの構築などの現場経験を蓄積していくことで、これからインドに参入する日系企業とも協業しながら大きく発展させたいと考えています。

―なるほど。実際に事業を展開してみて、いかがでしょうか。

すでに私達のお客様の7割はインド人の富裕層及びトレンドに敏感な若い世代の方々です。この方々は日本食の質も知っており、私達は大変高いリピーター率と共に、毎月大きく成長しております。

今後もオンライン、オフラインのマーケティング活動の相乗効果を通して、インド人消費者に積極的にアプローチし、ブランド認知を高めていきたいと思います。

Sushi junction

海外就職を目指す日本人女性にメッセージを!

―最後に、この記事を読んでくれている方にメッセージをお願いします!

そうですね。シンプルですが、一歩踏み出してみることをおすすめしたいと思います。

特に20代は様々なことに身軽に挑戦できる時期です。その時期がないと、30代の道は切り開かれません。結婚や恋愛、家族との関係、いろいろあると思いますが、自分が進みたい道に進むことで、出会う人も、その道にいる人に出会うことができます。

私も、自分のやりたいことに正直になっていなければ、人生のパートナーとは出会っていなかったと思います。私の20代を振り返ると、熱い思いを持ってとにかく行動していたと思いますね(笑)ただ、もう少し冷静になれる部分もあると良いのかなというのも感じました。自分と似た選択をしている5年先、10年先を歩んでいる人の話を聞けたらより良かったなとも思います。

―なるほど。熱い気持ちの中に、冷静さを持つこと、とても大事ですよね。

まさにそうです。また、日本にいるとどうしても「One of Them」になってしまいますよね。

これからは、もっと自分をニッチな立場に置いて差別化することが大事だと思います。そういう環境に置くことで、自分の知らない自分自身の魅力というものに気づけ、またそれを磨いていくことが出来ると思います。自分が信じる道に、一歩踏み出してみてください!

インドで起業した手嶋綾子さん

参考

Sushi Junction

「これから大きく成長するインドで日本の素晴らしさが伝わる新しい消費者ブランドを創りたい」という思いから、2015年にスタートしたオンライン・デリバリーサービス。

現在はデリー・グルガオンを中心にロール寿司、丼もの、サラダなどをWebサイト・モバイルサイト・お電話で注文を受けて、ご自宅・オフィスにお届けするサービスを行っております。

またSushi Junctionでは、インドで新しいブランドを創るという熱い思いを共有して頂ける、優秀な人材を世界各国から募集しております。シェフ、マーケティング、正規社員、インターン生、是非ご連絡下さい。

編集後記

インドマーケットにおける日本食の話についてもとても興味深い内容を教えて下さいました。まだまだ認知度が低い日本食だからこそ、大きなビジネスチャンスがあるといえるでしょう。

海外で活躍される日本人女性の、まさにロールモデルといえる綾子さん。今後のご活躍も応援しております!ご協力いただきありがとうございました!